3・11後の企業行動に関する寄稿文

 

第4回  「危機管理の鍵は良好な社内コミュニケーション」

警察大学校教授
樋口  晴彦
専門  組織管理

  あらためて言うまでもないが、東日本大震災によって被害を受けた地域は極めて広く、その被害状況も多様であった。サプライチェーンの途絶や消費活動の低迷という面まで含めれば、日本のありとあらゆる企業が被害者となったと言ってよい。

  この未曽有の危機に対して、大抵の企業では、それまで用意していたBCP(Business Continuity Plan)があまり機能しなかったようだ。その反省を受けて、さらに精緻なBCPの作成に取り組んだ企業も多いことだろう。しかし、筆者に言わせれば、それは見当違いである。

  これほどの自然災害となると、「風が吹けば桶屋が儲かる」の喩えのように、意外な方向から巡りめぐって影響が及んでくる。つまり、どのような被害が生じるか予測がつかなくて当たり前なのだ。それに対する備えとしては、基幹的な原材料について、あらかじめ調達先を分散したり、ストックを増やしたりするくらいが関の山である。後は、「出たとこ勝負」とならざるを得ない。

  そもそも、危機のシナリオはあまりにもバリエーションが多く、そのすべてを網羅するなど出来るわけがない。BCPはあくまで目安程度のものにすぎず、むしろBCPを作成する過程で経営者やリスク管理担当者が『頭の体操』をすることに意味があると考えるべきだ。

  今回の震災の教訓を踏まえて、『頭の体操』をやり直すのは結構なことだが、BCPの改訂作業は程々に留めておいたほうがよい。多大の費用と労力をかけてサプライチェーンを徹底調査しても、経済は生き物である以上、すぐに内容が陳腐化してしまう。例えば、下請企業が仕入先を変更しただけでも、プランに大穴が開くことになる。

  それよりも、社内コミュニケーションの活性化にエネルギーを注ぎ込むほうがよい。「出たとこ勝負」の局面で迅速に対応するには、現場からの活きの良い情報が不可欠であるからだ。特に、今回の震災のように影響が広範囲に及ぶと、本社だけでは事態を掌握しきれないため、現場が指示待ち姿勢だと何もかも後手にまわってしまう。

  しかし、普段やれていないことが、いざという時にできるはずがない。福島原発事故における東京電力のドタバタぶりが示すように、本社と現場の風通しが悪い企業は、非常時でもやっぱりそのままだ。

  良好な社内コミュニケーションは、日常業務の基本である。逆に言えば、日常業務がしっかりしている企業は、危機管理にも強いということだ。この当然すぎる事実を経営者は噛みしめるべきだろう。

著者略歴
84年東大経卒、94年米ダートマス大学MBA。警察大学校教授として危機管理・組織不祥事について研究。危機管理システム研究学会常任理事、失敗学会理事。『不祥事は財産だ』 (祥伝社刊)など著書多数。


掲載日:2011年9月8日




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