「3.11後の企業行動」に関する寄稿文



第14回   Think Positive!

大和総研   環境・CSR調査部長    河口  真理子

ここ2ヶ月、3回ほどSRI/CSRのアジア地域の国際会議に出席して、国際社会における日本の立ち位置について再考する機会を得た。アジアの会議では当然のことながらいずれも話題の中心は中国である。勢いのある韓国の存在感も無視できない。そして、日本の存在は薄れている。日本国内では最近こうしたアジアの地勢図の変化を嘆く声を多く聞く。しかし、「アジアのリーダーであった日本が衰退している」という見方はあまりに短絡的なのではないか?

先日参加したソウルでの国際会議では、英国人の教授が中国パワーの台頭について漢の時代にさかのぼって解説していた。聴衆は韓国、中国、日本を含めたその他アジアの人たちである。日本人としては、世界的パワーとしての中国の台頭というのは、なんとなく面白くないものだが、他の国の人たちはごく当然という空気で聞いている。そのギャップを感じるなかで、アジアのスーパーパワーは歴史的に中国であり、日本の優位はここ数十年の何かの突然変異的突発事象というのが、アジアの通常の歴史観ということに気がついた。日本の明治以来のがんばりと特に高度成長期の経済的な輝きは、千年単位でみるアジアの歴史の中では単なるつかの間のイベント。たとえば13世紀から14世紀にかけて元(モンゴル)が中国のみならず欧州までを征服した。日本は、地理的にみてもアジアの東端の海の向こうにへばりついている島国にすぎない。このことをフェイスブックに『東アジアのオミソな日本』と書いたら反響があった。そう、極東の中国の影の中にある島国がこの百年数十年まえから、急に国力をつけて近隣諸国を侵略し、その結果戦争に負けたはずなのに、気がついたら今度は工業製品で世界を席巻した。この日本優位は特殊事情であり、ここへ来て通常の中国中心のアジアの秩序状況にもどりつつあるに過ぎない。そのように現状認識すれば、今の日本の状況に落胆することなく、冷静にこの日本が世界にどのような貢献ができるのか、新たな戦略を考えられるのではないか。  

もう一つ国際会議に出席して感じたことがある。3.11を経験した日本人の意識が3.11前とは非連続で変化したと思われることだ。先述した国際会議では、いずれもCSRや環境の議論がメインであったが、「大幅なCO2削減のためにライフスタイルは変えられない」という、3.11前の日本と同じロジックが議論の前提であった。しかし、日本では被災地以外では一見ほぼ3.11前の生活と意識にもどったような経済活動が行われているようだが、「従来の物質による経済成長路線は不可能かもしれない」という認識は広く日本人の深層心理で共有されているように感じる。実際に3.11前には、CO2削減は5%でも難しいと言われてきたが、この夏は25%の電力使用量削減目標をクリアしてしまった。経済状況は国内外で厳しいが、気候変動による被害、食糧や水、森林などの生物系の資源問題、鉱物資源の枯渇の問題、そして世界にひろがりつつある貧富の差の拡大など、人類が直面する課題は深刻さを増している。日本の省エネ、さまざまな環境技術でこれらの問題に対処していこう、という話は良く聞く。しかし日本人が貢献できるのは、技術や製品に加えて、ライフスタイルはその気になれば変えられる、20世紀型経済成長のパラダイムは変化している、という日本人の認識とそれに基づく行動を世界に見せて実行していくことだろう。今の状況を目前に、日本はダメだと自嘲して、やる気をなくすことはいつでも可能だ。しかしわれわれが得た教訓と新たな価値観と世界でもっとも洗練されたモノ作りを組みあわせて新たな経済のパラダイムを世界に提示していくことが、今回犠牲になった多くの方たちへの、残された私たちのできるささやかな供養であり責務ではないのだろうか。


            掲載日:2011年11月24日



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