「3.11後の企業行動」に関する寄稿文



第15回  「企業の使命と競争の本質」

早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授
首藤  惠
専門  コーポレート・ガバナンス、CSR、金融システム

  この東日本大震災の後ほど、社会における企業の存在意義について一般の人々の関心が高まったことはないのではなかろうか。みずからが提供する商品やサービスが社会で果たしている役割と波及効果の大きさを、あらためて認識した企業も多い。自社の活動の社会における位置づけを理解して対応した企業とそうではない企業が、これほど明確に識別されたことはない。多くの企業で社会的使命や社会的責任という言葉が多用されてきたが、それぞれの認識がまさに試されたといえる。
  予想を超えた事態に直面して迅速かつ的確な対応を取りえた企業の多くは、経営陣の的確な判断だけでなく、現場の従業員がみずからの判断で顧客や地域住民に対してやるべきことをいち早く判断し対応した企業であった。自社の業務の社会における立ち位置を経営方針に的確に取りこみ、組織の末端まで徹底していた企業であった。優れた日本企業の強さが、こうした組織の強じんさと柔軟さにあることを教えてくれた。
  短期的な利潤ではなく企業としての使命と信頼を重視した事例は、一般の人々の助け合いと秩序だった行動とともに、日本の注目すべき特質として評価された。他方で、日本企業の危機管理とリスク管理の弱さが、多くの日本企業の課題であることも明らかとなった。絶えず多くの天変地異にさらされてきた風土ゆえの、日本社会の忘れやすさと楽観主義がその根底にあるのだろう。いったんことが起これば社会をあげて組織をあげて遮二無二取り組むが、のど元過ぎれば熱さを忘れ、長期的な視点からのシステマティックな対応をとらないでうやむやに済ませてしまう傾向である。
  大震災は、日本企業の強みと弱さだけでなく、企業にとっての競争の本質をあらためて教えてくれたと思う。大震災を境に、社会のあり方に対する人々の意識や価値観は、非連続に変わったと言われる。企業をとりまく環境に、断層的な構造変化が生じたと言われている。企業とは本来、社会の中で人々の満足を高めるために価値生産活動を行う主体である。限られた資源を人々の満足を高めるために有効に活用し、みずからの活動を社会や環境の変化に対応させるために創意工夫を行う。そうであれば、人々の意識や価値観の変化をくみ取って革新を続ける企業の間の競争こそ、社会を変える原動力となる。別の側面から見れば、企業にとって変化への対応とは、社会との関係で生じうるリスクを的確かつ迅速に把握し、システマティックに管理することに他ならない。
  日本企業がその強みである組織の強じんさと柔軟さを発揮し、震災の教訓を内外での競争力に結び付けることができるのかどうかが、日本の社会の方向を左右することになろう。そのためには、人々の意識や価値観の変化を先取りしビジネス・チャンスとして打って出る、日本企業のしたたかな行動が求められる。


             掲載日:2012年1月4日



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