「3.11後の企業行動」に関する寄稿文



第18回  「人による事業継続性と企業価値」

上智大学地球環境学研究科教授
藤井  良広
専門  環境金融論、CSR経営論

  「3.11」が巡ってきた。1年が過ぎて、事態の大きさ、深刻さを改めて思い知らされる。被災地の膨大な瓦礫処理、地域社会の再生、インフラ・住宅等の復興・復旧、東京電力福島原子力発電所事故後の放射能汚染除去、安心・安全の電力確保――。容易に解きほぐせない課題ばかりだ。それだけ震災の影響は大きかった。
  二年目に入る復興・復旧の眼目は、地域経済の再生であり、雇用の確保・拡大であろう。期待は企業の肩にかかる。この1年の間、多くの企業は自らの活動と社会との関係を改めて自問させられたのではないか。被災地の工場やサプライチェーン拠点を集約し、被災地の外へ海外へと移した企業もあった。その一方で、困難を克服し、敢えて被災地での操業再開・展開にこぎ着けた企業も少なくなかった。
  前者が「無慈悲な企業」で、後者は「善い企業」と、簡単に言うわけにもいかない。グローバル競争下にある企業にとって、一分一秒が勝負であり、震災でさらなるリスクマネジメントの強化が求められたのも事実である。
  ただ、震災とその復興過程で明らかになったのは、工場やサプライチェーンの底力は、単に労働コストやリスクの比較だけではなく、困難な中でも操業を継続しようとする従業員、地域社会などの決意、協働の意識に大きく依存するということだった。まさに人の“粘り”が製品の品質を支え、仕事への誇りが納期を守り、新たな工夫を生みだす。震災前から東北地方にサプライチェーン拠点が広がっていたのも、単に過疎化対策や労働コスト対応だけではなく、東北人特有の頑張り、誠実さが企業価値を支えることを暗黙の前提としていたのではないか。
  物理的なBCP(事業継続計画)とは別に、人による事業継続性の重要性とでもいおうか。欧米企業が主導してきた途上国での低労働コストを前提とした海外進出は、途上国の成長とともに賃金が上昇し、次第に進出のうまみを失う。結果として労働争議も増え、対立を深めがちだ。そうではなく、企業を支える人を育て守る。そうした人に支えられた経営を、国の内外を問わずに展開することこそが、企業の価値を高める。
  「絆(きずな)」という言葉が広がった。企業と労働者、地域の関係に当てはめると、絆はまぎれもなくマイケル・ポーター提唱の「共通価値(Shared Value)」と同義に聞こえる。絆を深め、高めた企業こそが、長期的な競争力を発揮する。従業員は働き甲斐を実感し、地域社会は活性化する。そうした企業が一社でも多く被災地で立ち上がってもらいたい。

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             掲載日:2012年3月8日



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