「3.11後の企業行動」に関する寄稿文



第19回  「新脱自前+新長期思考+多様性→新しい経営」

埼玉大学経済科学研究科客員教授
藤井  敏彦
専門  CSR、ノンマーケットストラテジー論、EU

東日本大震災から一年を経過した今日、自社の震災復興支援を振り返る良い機会である。その際には、支援の反省点とそのカイゼン策に加え、今後の経営のあり方についてどのようなレッスンをくみ取るべきかについても議論して欲しい。復興支援という枠を外して今回の経験を経営の革新につなげること、それが大切だと思うのである。

参考までに、私が考える3つの含意を述べてみたい。もっとも、自ら考えることが何よりも大切であり、以下はあくまでご参考の用に供するものである。

-新・脱自前主義
  「脱自前主義」は主に研究開発の世界で使われる。何から何まで自社で開発しようとするのではなく、他社と組むことで強みに集中する。しかし、欧米の企業は脱自前をもう一歩進めている。研究開発だけではなく、ビジネスニーズの発掘から組織の価値観の形成まで市民団体や時に国際機関と連携して進めるのだ。この新・脱自前主義の重要性は真摯に復興支援に携わった企業であればあるほどよく理解できるのではないだろうか。

-もう一つの長期思考
  日本的経営は長期的経営だと言われる。確かに多少の困難があっても従業員を解雇せず、また、銀行も融資をそう簡単には引き上げない。コミットメントをできるだけ守ろうとするという意味で確かに日本企業の経営は欧米企業に比べて長期的性格をもっている。しかし、である。長期思考にはもう一つの側面がある。将来を見通した上で現在を変革するという面である。この点において日本企業はどうだろうか?今回の震災が日本の経営陣に内省を求めるとすれば、ひとつはこの点ではないかと思うのである。

-多様性の意味
  多くの企業人がボランティアとして被災地に向かった。彼らは異口同音にその惨状に圧倒されたと語る。なにせ何もない。自分の常識が通用しない世界。このような世界で何事かをなすという経験は、本人にとって貴重なだけではない。その人が属する組織の財産なのだ。多様性の経営上の意味とは、組織を構成している人種の数だとか、男女の比率というところに本質があるのではない。異質な経験と常識をもった人間同士でしかできない様々なコミュニケーションから新しい価値を生み出すことにある。支援にあたった人材をきちんと戦力にすること、多様性の経営への含意というものが理解するより入り口ではないだろうか。

きっと他にもあるはずだ。ポイントは折角の取り組みを「経験談」に終わらせないことである。「美談」として紹介することが一番大切なわけでもない。含意を抽出し、経営を変えていくことである。


著者略歴
埼玉大学大学院教員、経済産業研究所フェローとして企業と社会の接点の設計につき考察を続けている。著書に「ヨーロッパのCSRと日本のCSR」、「アジアのCSRと日本のCSR」等CSR関係に加え、企業経営とグローバルルールとの関係を論じた「競争戦略としてのグローバルルール」を3月末に東洋経済新報社より上梓予定。


掲載日:2012年3月23日



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