3.11から一年が経って改めて考えるのは、この大変な犠牲をもたらした災害の教訓を企業はきちんと生かすことが出来ているかということです。3.11では東北地方で事業を行う多くの企業が直接的な被害を受けただけでなく、それ以外の地域で事業を行う企業でも間接的な被害を被ったところが少なくありません。言うまでもなく、サプライチェーンが寸断されたからです。
3.11は、多くの企業のサプライチェーンが、私たちが想像する以上に長く複雑になっており、しかも一極集中していることを気付かせました。もちろんそれは経済的、時間的な効率を極限までに高めるためのものであり、平時はたしかに効率良く機能していました。ところが、ひとたび災害が起きて寸断されると、とんでもないところにまで影響を及ぼしたのです。エネルギーの供給も同様です。これに対する備えとしては、分散化、多様化、自立化の3つを図ることが重要でしょう。
「分散化」については今さら説明するまでもないでしょう。「分散化」がものごとを量的に分散させることであるのに対し、「多様化」はものごとを質的に分散させることと言えます。同じ原材料の調達ルートを量的に分散するだけではなく、何を原材料にするか、あるいは何を作るかという質的な部分も集中し過ぎないようにしようということです。そして「自立化」とは、なるべく工場の近くから原材料やエネルギーを調達し、サプライチェーンを無闇に長くしないということです。
実は、生物の世界ではこれらはあたり前のことで、多くの生きものがこの3つをごく自然に行っています。もちろん生物の世界においても、早く成長しなるべく多くの子供を残すこと、つまり効率良く再生産することは重要です。しかし、大きな災害に見舞われたとき、すべての個体が死んでしまっては元も子もありません。長い、長い時間を生き残るためには、効率を最大限に上げることではなく、何が起きてもいくつかは生き延びて次の世代へとつながることの方が重要なのです。もし仮に効率を優先する生きものがいたとしても、その種は長い生命の歴史の中で、既に死に絶えてしまっているでしょう。
そしてこの3つの中で特に大切なのは、多様性だと思います。いくら分散化しても、広範囲にわたって同様の危機が発生すれば、生き延びることは難しいからです。多様な存在によって構成され、多様なやり方を持っている組織やシステムは、レジリアンス(回復能力)が高いのです。
冒頭で、企業は教訓を生かせているのかとの懸念を示したのは、私たちは昨年秋、今度はタイで同様の問題に直面したからです。事業の分散化、多様化、自立化を図っていれば、大洪水が起きてもここまで被害は大きくならなかったでしょう。生きものたちがあたり前に行っていることを、企業はいつになったら出来るようになるのでしょうか。もっと謙虚に自然から学ぶことが出来るようになったとき、私たちは本当の強さを手に入れることができるはずです。
著者略歴
植物生態学で博士号を取得した後、国立環境研究所、マレーシア森林研究所に勤務、2002年にコンサルタントとして独立。
2006年に株式会社レスポンスアビリティを設立し、持続可能な社会を作る責任ある企業を支援している。特に力を入れているのは、企業による生物多様性の保全とCSR調達(サプライチェーンマネジメント)。
掲載日:2012年4月4日