「3.11後の企業行動」に関する寄稿文



第21回  「前例を踏襲しない思考の勧め」

青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授
八田  進二
専門  会計監査論

  3.11の東日本大震災後、地震、津波あるいは原発に関する科学者ないしは専門家と称する人々が、多くのメディアに登場し、異口同音に発していたのは、「想定外」という言葉をもっての論評であった。およそ専門家たるもの、自ら専門とする領域に関する研究と研鑽を重ねた叡智をもって、まさに、「想定外」とされる事項を「想定内」に置き換えていくことこそが、本来の任務というべきである。したがつて、過去に経験したことがないとか、自身の研究の前提から逸脱している事象ゆえに予想不能であったということで免責されるものではない。それどころか、科学者たるもの、まさに、「想定外」として線引きされる閾値を、自身に都合の良いように規定することで、「想定内」の事象等についてのみ解決を図ろうとしてきた状況が伺えるのである。

  こうした不幸な災害を通じて得られる教訓は、「前例に倣う」とか「前例を踏襲する」といった形での、リスクを取らない後ろ向き的思考からの脱却こそ、これからの時代を切り拓いていく鍵であるということである。

  企業を取り巻く環境は、劇的な変革のただ中に置かれており、経営上の課題についても、これまでわれわれが経験したことのないように、日々、多様化し複雑化してきていることは誰もが実感するところである。したがって、こうした経営課題に対する回答を求める際には、いわゆる「前例踏襲主義」は、百害あって一利なしといえるであろう。

  「他人ひとのしないことをする」「他人ひとの考えないことを考える」といった独創的な視点を持つために、柔軟かつ斬新な思考力を養成することが強く求められる。過去に固執しがちな思考にリセットボタンを押して初期化するとともに、これまで見過ごしてきたあらゆる事象ないしは課題に対して自問自答することが必要なのである。そのためには、すべての関係者が鈍感な惰性に近い言動に分かれを告げて、敏感な感性を養成することが求められる。

  3.11後、多くの企業は、復旧および復興を目指して、様々な課題に直面したであろうが、そうした課題の克服に際して、過去の経験ないしは既存の判断基準にのみ依拠していたのでは、また再び、同様の災難に遭遇する可能性は高い。そうではなく、この際、前例を踏襲しない斬新な視点を持つことで、新たなイノベーションを起こす原動力が芽生えるものと思われる。


著者略歴
慶應義塾大学経済学部卒業、早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了、慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得。2002年4月より現職、博士(プロフェッショナル会計学)。
             
掲載日:2012年5月7日



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