「3.11後の企業行動」に関する寄稿文



第22回  「企業は、技術を生かしてよりよい社会を築けるか」

NPO法人 社会的責任投資フォーラム(SIF-Japan) 会長
荒井  勝
専門  投資、金融

  3.11の震災をきっかけに、企業や投資の社会的責任について改めて考えた。特に気になるのが、「人類は自分達がコントロールできない技術に手をつけ始めているのではないか」という疑問だ。
  原子力発電は、事故を起こすと自然には収束することがない。使用済み核燃料の問題も未解決だ。地層に埋める処理が経済的といわれるが、ウラン鉱石並みに放射能が低下するには1~10万年を要するそうだ。今から1万年前といえば、氷期が終わり、人類が農耕を始めたころだ。10万年前は現生人類と異なるネアンデルタール人の時代だ。数千年後に想定外の事故が起これば、「自分たちの生活を享受するために子孫の生活を犠牲にした」と21世紀の日本人は歴史に記されるのだろうか。
  原油の深海掘削もそうだ。2010年のBPメキシコ湾原油流出事故では原油噴出を止めるのに数度失敗し、収束までに3か月かかった。掘削現場の水深は1500メートルだった。ブラジルで期待されている巨大海底油田は5~7千メートルの海底だ。事故が起きた時に終結させる技術はあるのだろうか。 
  金融市場の暴落には金融工学が関わるようになっている。1987年のブラックマンデーでは、投資ポートフォリオの値下がりを防ぐはずの手法が市場の急落で機能しなくなり、逆に暴落の要因となった。98年にはロシアの債務不履行をきっかけに、ノーベル経済学賞受賞学者たちのドリームチームとうたわれたヘッジファンドLTCMが破綻し、金融システムを危機に陥れた。リーマンショックは記憶に新しい。それまで住宅ローンを借りられなかった人向けにサブプライムローンが考え出され、それを組み込んだ証券がAAAの最上級に格付けされて、世界の機関投資家が保有していた。しかし資産価格の暴落で紙くず同然となり、世界的な金融危機を引き起こした。現在の欧州危機もその続きに過ぎない。全てが想定外であったはずだ。
  生命倫理の問題も避けて通れなくなっている。クローン技術や再生医療技術の問題だ。さらには人の一生全てを記録することで、その人の人格をコンピューターの中に再現できると考える科学者もいる。肉体が滅んでも不死の生命をコンピューターの中に持ち、子孫がコンピューターの中の「私」に出会い、質問することも可能だという。成長さえするかもしれない。
  このような技術を生かして、企業そして人類は、よりよい社会を築けるのだろうか。あるいは取り返しがつかない想定外の危機を招いてしまうのだろうか。


著者略歴
慶應大学商学部卒。カイロ・アメリカン大学アラブ研究センター修了。大和証券で海外金融業務に携わる。大和証券投資信託委託 取締役兼専務執行役員(運用本部長)、顧問を務め退任。FTSE4Good政策委員会メンバー、CDP Japan (カーボン・ディスクロージャー・ジャパン)アドバイザリー・グループ・メンバー、エコステージ協会第三者評価委員。


掲載日:2012年7月2日



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