第25回  「自社と社会のレジリアンスを高める」

幸せ経済社会研究所所長、環境ジャーナリスト、翻訳家
枝廣  淳子

  東日本大震災は、多くの教訓を私たちに残しました。そのひとつが、「レジリアンス」の大切さです。「復元力」「弾力性」などと訳される言葉ですが、私は「しなやかな強さ」と言っています。風にそよぐ竹のように、「何かあってもまた立ち直れる力」のことです。 
  今回の大震災は、日本の社会や企業がこのレジリアンスを失っていたことを明らかにしたと思うのです。たとえば、震災後、物流が完全に麻痺し、現地のみならず、全国各地の生産もダメージを受けました。大きな震災の後に一時的にいろいろなものが止まるのは仕方がないとしても、今回はかなり長期間にわたって物流も生産も麻痺してしまいました。 
  なぜそのような状況になってしまったのでしょう? なぜ、「何かあっても、速やかにしなやかに回復する」物流や生産のシステムではなかったのでしょうか? 
  その大きな理由は、物流にしても生産にしても、できるだけ途中で在庫を持たない「ジャスト・イン・タイム」が行き渡っており、部品コストを下げるために調達先をしぼって1社だけに依存するようになっていたことです。効率や低コストを求めて、在庫を持たず、少数の調達先に頼るやり方は、今回のような事態にすぐ生産停止に追い込まれる構造を作り出していたのです。 
  ジャスト・イン・タイム方式も、調達先の絞り込みも、何も問題がない「平時」には最も効率の良い方法ですが、何かあったときにしなやかに回復する力は弱かったことが明白になったといえるでしょう。
  「短期的な経済効率を重視するあまり、平時にはその重要性が見えにくい、中長期的なレジリアンスを失ってはいけない」――これが企業にとっての最大の学びの一つではないかと思います。
  自社のレジリアンスと同時に、企業は地域や社会の一員として、地域や社会のレジリアンスを強める役割を果たせるし、果たすことを期待される時代になってきています。大震災だけでなく、これからの時代は、世界的には人口やさまざまな圧力、競争が増大し、日本では国内の人口も市場も縮小し、高齢化・過疎化が進む中、温暖化やエネルギーなど様々な問題が悪化していく「先細りの社会」です。このような状況の中で、それでもどうしたらしなやかに強く生きていける企業になれるのか、しなやかに強い地域や社会をつくっていけるのか――本当に持続可能で本当に幸せな社会のために、企業にはこれまでにない力や役割が期待されています。「自社のレジリアンスと社会のレジリアンス」の両方をしっかり考えていってほしいと願っています。

著者略歴
東京大学大学院教育心理学専攻修士課程修了。「不都合な真実」(アル・ゴア氏著)の翻訳をはじめ、環境問題に関する講演、執筆、企業コンサルティング等を通じて「伝えること、つなげること」で変化を創り、広げるしくみを研究。幸せ経済社会研究所では持続可能性を土台に、本当の幸せを経済や社会との関わりで学び、考え、対話する研究会を開催している。経済産業省総合資源エネルギー調査会基本問題委員会委員。

筆者への問い合わせ先
幸せ経済社会研究所   http://www.ishes.org/  
有限会社イーズ  http://www.es-inc.jp/  



掲載日:2012年9月10日



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