「3.11後の企業行動」に関する寄稿文



第26回  「企業に求められるDNAとは何か」

大阪電気通信大学金融経済学部教授
山本  利明
        専門  企業の社会的責任、社会的責任投資

  私は私企業に35年近く務め、現在は大学で社会的責任論を専門テーマとしながら教鞭をとる立場にある。かねてから東日本大震災に対する企業の取り組みについて関心があった。 
  そんななかで、企業と社会フォーラムの「震災と企業」という研究プログラムで、ヤマトホールディングスなどの取り組みについて学ぶ機会があった。同社の震災対応は素早かっただけでなく、徹底したものだった。特筆すべきは、震災直後に被災地で救援物資の輸送・管理が停滞していた状況に直面して、現地スタッフが自主的に自治体に協力をオファー。同社自身の営業再開がままならない段階なのに、自社の車と人的資源の無償提供を申し出た。 
  よく知られたエピソードではあるが、現地の行動は本社や上司の承認を得ずに実行されたので、形式的には権限違反であり、コンプライアンス違反だ。もし同社の企業風土に、形式的なコンプライアンス遵守主義がはびこっていたとしたら、現地の行動はあり得なかったろう。目前の窮状に、企業として何をなすべきかという思考回路が反射的に機能したからこそ今回の行動があった。
  同社は「宅急便1個10円寄付活動」によっても、142億円という企業寄付としては最大級の貢献をした。この決定は3月末という早い段階で、経営トップでされたという。しかし、グループの連結純利益の約4割にも相当する金額を寄付するという決定は、株主などからの反発、場合によっては株主代表訴訟のリスクを招く可能性があった。結果的には、復興支援活動は社会から高く評価され様々な形で顕彰された。
  同社の従業員の行動、経営トップの意思決定に共通するものは、社会の中で企業がどう振舞うべきかについてのコンセプトが、企業のDNAともいうべきレベルで身についていたという事実ではないだろうか。
  上記の研究プログラムでは、商社や建設業、損害保険会社のケーススタディもあったが、その中では、NPOや社会福祉団体などとの協働やコミュニケーションの経験が、非常事態に対処するにあたって大いに活きたという事実が浮かび上がっていた。もちろん、本業の中での震災対応への注力していることが前提での話であるが、ステイクホルダーとの関係構築を地道に積み重ねてきた企業と、CSR報告書の一項目を埋める材料くらいにしか考えてこなかった企業との差が如実に表れる結果となった。
  企業が社会とどう向かい合うべきなのか。今回の震災復興への取り組みは企業行動のDNAの本質的部分をあぶり出したようだ。では、どうして望ましいDNAを培っていけるのか。その答えは、企業の不断の誠実な取り組みにしか存在しないというのが、現時点での私の結論である。





掲載日:2012年10月4日



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