「3.11後の企業行動」に関する寄稿文



第29回  「昭和8年の復興計画書」

NPO法人 樹木・環境ネットワーク協会 理事長
澁澤  寿一
専門 環境NPO、地域づくり

   手元に一冊の分厚い冊子がある。「大槌町吉里ヶヶ部落 新漁村建設計画要項」と記され、日付は昭和8年7月13日と読み取れる。昭和8年3月3日、東北は大津波にみまわれ、ほぼ今回と同様の被害を受ける。本紙はその時の復興計画書である。作成したのは村人44名と5名の役場職員。一昨年の7月6日に吉里吉里の氏神である天照御祖(アマテラスオオミカミ)神社の蔵の中から見つかったと、宮司の藤本さんが避難所に持参された。今回の災害では、7月はまだやっと仮設住宅が出来はじめ、少しずつ避難所から移られる方が出始めた時期である。息を詰めて開いた1頁目には、「隣保相助の精神のもと部落永遠の共存共栄を図るため、個人の感情や利害を越えて、部落の再興と次世代の育成にあたろう。」という文が綴られている。そこには高台移転や防潮堤の嵩上げといった、今次災害の関心事ではなく、自分たちが何を大切に思い、どのような心持で再建にあたるかという、いわば心構えが書かれていた。
   私たちは高度経済成長以来、この50年間、物質的な豊かさのみを追い求め、経済の成長の中だけに未来を求めてきた。「価値」とは「貨幣」に換算できるものであり、それは公平な社会を作る上で不可欠なことと信じてきた。一面ではそれは真理であり、私もまさにその価値観を生きてきた一員である。ところが今回の震災で私たちは、貨幣に換算できない価値があることを再認識させられた。「絆」という言葉。「生」と「死」の境。そして「物質」と「精神」。被災地の方々は今、今後新たに作り上げる社会は、「物と心のバランス」が取れた社会だと確信している。多くの被災者の方々が、物だけが溢れる現代の都会を目指さず、現存しない新しい社会、新しい価値観を創造しようとしている。それは「人と人」「人と自然」「世代と世代」の関係性を創り出す作業であり、そこには被災者もボランティアも企業も行政も、立場は同等である。私はその動きの中にこそ、持続可能な社会の創造に向けた、新たなマーケットが開けると確信している。
   もう一度、自分にとって、社会にとって、大切なものを積み直す行為。愛や、赦しや、慈しみを、宗教の中に押し込めないコミュニティー。所有から共有への価値観の変化。暮らしは買うものではなく作るものだと思える日常・・・ビジネスを通し、そのような「関係性」を提案できる企業が増えてくれれば、今回の東日本大震災の多くの犠牲者の命が、未来の子供たちのために無駄になることはないのであろう。


著者略歴

1952年生まれ。JICA農業専門家として南米で技術指導。帰国後、長崎オランダ村、ハウステンボスの役員として企画、運営に携わる。1994年からは環境NPOとして、国外・国内の森づくり、地域づくりの活動を展開中。2002年からは森や海に生きてきた名人・名手の生業と人生を、高校生が聞き書きする「聞き書き甲子園」を農林水産省、文部科学省、環境省、国土緑化推進機構とともに主催。2009年からは農山村支援センターの副代表も兼ね、地域資源や人材を活かした地域づくりを行っている。農学博士。


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掲載日:2013年2月1日



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