「3.11後の企業行動」に関する寄稿文




第36回  「建築と土地利用の環境評価基準における日本の常識と
世界の常識。3.11を契機とする収斂と乖離」

CSRデザイン&ランドスケープ株式会社 代表取締役
一般社団法人グリーンビルディングジャパン 共同代表理事
平松  宏城
専門   LEED、環境不動産

   3.11以前、日本と世界の環境評価で照明照度に対する考え方は大きく異なっていた。必要最低限の照度は確保しつつ、単位面積あたりの照明消費電力をできるだけ下げることを評価する世界の基準に対して、日本では消費電力低減よりも机上面の明るさ確保の方を高く評価していた。目の色の違いによる明るさ感応度の差と、テナントが求める(であろう)明るさを提供できないことによる機会損失を理由として、多少のオーバースペックを承知の上で机上面750ルクス以上とする設計が常識であった。しかし3.11以降、電力供給不足による国を挙げての一斉節電協力を経て、空調に対しては数多くの不満が聞かれたが、照度を下げることに対してはほとんど問題ないことが実証された。今では天井照明を500ルクス以下とし、必要に応じて手元ライト対応という設計も珍しくなくなっている。これは3.11を契機として日本の評価基準が世界と同じ方向の基準に収斂したケースである。

   かたや、日本と世界の環境評価基準の考え方において大きな乖離が発生している問題がある。それは津波対策としての防潮堤と河川堤防の建設計画において生じようとしている。防潮堤は東北3県だけで370km、その他日本全国においても建設が計画されているようであるが、その建設は災害復旧として位置づけられているために「住民合意」も「環境アセス」も不要とされている。これは、世界の環境性能評価の常識からすれば、あまりにも乱暴な計画であると言わざるをえない。人命と財産の保護は当然にして最優先されるべき事柄であり、かつ、緊急性を以て取り組むべき課題であるが、世界の環境性能評価では、湿原と水域の生物生息地の保護は最も重要な必須要件の一つと位置づけられている。丁寧な調査や議論に基づく綿密な計画が不在のまま防潮堤の高さが決められ、それに対してすでに国によってつけられた予算を使うかどうかの判断を期限付きで各自治体(県、市、町)に委ねる現在のやり方は、やや拙速にすぎはしないか。今一度ここで立ち止まり、環境影響評価を実施した上で再興される街のゾーニングとの関係性も考慮し、良識ある代替案の中から防潮堤と河川堤防が本当に必要な箇所を慎重に特定する作業が必要である。そうでなければ、世界の環境評価とのあまりに大きな乖離は説明がつかない。また、コンクリート構造物の維持管理費用については自治体の財源負担となるが、陸の上のハコモノ公共施設の更新問題が顕在化する中で、次世代にこれ以上のツケを回さずに済む算段はついているのか。慎重な考察が求められるのは論を俟たない。


著者略歴

   日米の証券会社に勤務の後、環境NGO(気候変動が引き起す水問題に対して脆弱な都市インフラの再構築を提案するJXDA)を経て2006年にCSRデザイン&ランドスケープ㈱を起業。以来、建物や街のサステナビリティ(環境性能と持続可能性)を評価し、国際的な認定制度LEEDにつなぐ仕事をしている。
   LEED AP BC+D(新築ビル)、LEED AP ND(ネイバーフッド)、1級造園施工管理技士、京都造形芸術大学非常勤講師。


筆者への問い合わせ先

CSRデザイン&ランドスケープ株式会社
http://www.csr-design.com/




掲載日:2013年10月22日



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